青森地方裁判所五所川原支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人傍島を懲役二年に、被告人珍田、同中谷、同秋元を各懲役一年に処する。
訴訟費用中昭和三十三年十月十六日珍田被告人と他の三名の被告人との併合以前の珍田被告人のみの証人に支給した分は珍田被告人の、前記併合前の珍田被告人以外の被告人等の為の各証人に支給した分は被告人傍島、同中谷、同秋元各被告人の連帯負担、右併合後の各証人に支給した分は被告人全員の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
昭和三十三年四月十九日施行の青森県北津軽郡金木町町長選挙に当り津島英治、花田一、小田俊与の三名が立候補したが、同日の開票は金木地区の投票者の総数より投票総数が六票多いとの理由で開票が途中で中止となり、次で同月二十二日、その選挙に対し無効の宣言が為され、更にその無効宣言が取消され次で同月二十七日被告人傍島が選挙長、同秋元、同中谷及び訴外白川弥太郎が各開票立会人として開票を終了し津島英治候補の当選が被告人傍島によつて発表されたものであるところ、被告人等四名は右津島候補の有力な支持者で同候補者の為選挙運動を為して居たが、被告人秋元は右投票日の翌日の二十日から、同中谷は同月二十六日からそれぞれ開票立会人、又同傍島は右二十六日から選挙長となり前記二十七日開票終了迄各その担当事務を行つたものであるが、右選挙は前記小田俊与は問題とならず事実上、津島、花田両候補の競争であつたが、被告人等四名は右選挙の開票途中花田候補の得票が津島候補の得票より数百票上廻つている事を察知したが、前記選挙の無効宣言は四囲の情勢から維持が困難となり開票を続行せざるを得ないこととなつたがこのまゝ公正に開票をすれば花田候補の当選が予想されるところから開票を維持しつゝ同候補の当選をはばみ津島候補の当選を得る方法に付き昭和三十三年四月二十四日被告人四名の外右津島の有力な後援者である大橋忠雄、田中勇吉(当時開票立会人)西村啓次郎(当時町選挙管理委員長兼選挙長)土岐繁一等と五所川原市内の藤や旅館に集合してその方策を協議した結果開票に当り選挙長を右西村啓次郎から大橋忠雄に交替させた上他事記入その他の違法手段によつて花田の有効投票中から故意に数百票の無効投票を造る方法によつてその目的を達することに意見が纏まりここに於て被告人等は右の手段により津島候補を当選させるべく共謀した上更にその後金木町の杵屋料理店等に於て具体的な実行方法の細部に亘つて協議を重ねたがその間に右大橋忠雄、田中勇吉等が右共謀関係から離脱し、被告人傍島が西村に代つて選挙長、同中谷が右田中に代つて開票立会人となり被告人秋元と共同して前記目的の遂行に当る事になり同月二十六日には開票係員の大部分を津島派の者に交代させて右目的の遂行を容易にする為の方法を取り翌二十七日同町公会堂に於て開かれた選挙会に於て訴外白川弥太郎と共に開票立会人として開票に立会つた被告人秋元、同中谷の両名が予め被告人傍島と花田候補の有効投票中から故意に無効とする為の形式的理由として投票用紙に押捺してある金木町選挙管理委員会の印影中「挙」の字の手の部分が千の様に見えるものと「管」の字の竹冠の不鮮明なものを故意に偽造印となし之を無効票とすることの協定に基づき花田候補の有効投票中から故意に四百九十六票を無効票として選別し之を被告人傍島が右白川立会人の右無効とする選別に対する強行な反対を押し切り選挙長の立場を利用して壇に右の四百九十六票を一括無効投票と決定した上投票総数八千四百十六票(実際は八千四百四十七票)有効投票総数七千五百六十七票(実際は七千六百票)無効投票総数八百四十九票(実際は八百四十七票)津島候補の得票数三千九百九票、花田候補の得票数三千六百五十三票と開票の結果を発表し、以て花田候補に対する四百九十六票の有効投票を故意に無効として減少させたものである。
(証拠)(省略)
(適条)
被告人等の判示所為はいずれも公職選挙法第二百三十七条第四項刑法第六十条、罰金等臨時措置法第二条第四条に該当するところ、被告人傍島以外の各被告人は更に刑法第六十五条第一項第二項に該当するので公職選挙法第二百三十七条第三項によつて処断すべきところ各被告人に対してはいずれも所定刑中懲役刑を選択の上各その所定刑期範囲内で各被告人を各主文の刑に処し、訴訟費用に付てはいずれも刑事訴訟法第百八十一条第一項第百八十二条を適用して各主文の通り之を各被告人に負担させるものである。
次に起訴状の事実によれば故意に花田候補の有効投票を無効と決定したのは五百八十六票であると言うが、押収にかかる有効と決定された七千五百六十七票(実数は七千六百票)中に明らかに無効(偽造)票と認められる投票が七票((「証第三の四六六一号=(ツシマ)と記載」「証第三の八五一号(ハナタ)と記載」「証第三の八五二号(花田)と記載」「証第三の八五三号(ハナタ)と記載」「証第三の四五七五号(津島)と記載」「証第三の四五七六号(津島)と記載」「証第三の四五七七号(津島)と記載」))存在するがこの偽造と見られる主な点は他の多数の正規の投票紙に比べて金木町選挙管理委員会と印刷された活字の間隔が明らかに異る事、更に又同委員会の正規の印影とを比較して見るとその印影中の「委」の字の「女」の部分が明らかに字体が異つて居る外更に点検すればその印影の色も正規のものは朱色であるのに偽造の物は褐色である等明瞭に相異する点がありこの事は鑑定人小館衷二作成の昭和三十三年六月二日付鑑定書によつても明瞭に之を知る事が出来る、而して右の事実は少くとも本件金木町長選挙に際して偽造の金木町選挙管理委員会の印が投票用紙に押捺されて居る事になる、然してその偽造印は右の七票以外には押捺されて居ないと断定するに足る明確な証拠はない従つて昭和三十六年十月二十七日付の平井勝作成の鑑定書によれば無効票(被告人等が無効と決定し検察官は之を有効票であるのを故意に無効としたとして居るもの)五百八十六票中に正規の印影か否か鑑定不能の票が九十票存在する、従つてその九十票に押捺してある金木町選挙管理委員会の印影に付ては果して之が正規の印影か前記偽造の印影であるかは確定し難い、よつてその九十票に付ては明らかに有効票と認定する事は出来ないから右九十票に付ては被告人等に対して投票増減罪を認める事は出来ないものと解する。
次に寺井主任弁護人は被告人等の無罪を主張しその理由として本件犯罪の成否に関する点として先ず被告人等は本件選挙に際して花田派に不正行為があつた事を確信して居たので、昭和三十三年四月二十七日の開票に当つては被告人傍島、同中谷、同秋元は注意を特に花田候補の票の不審な点に凝らしたことは当然であり、その為に開票の結果に若干の客観的誤りを生じたとしても犯罪とはならないと主張するが、右被告人三名が花田候補の投票から無効として選別し更に決定したその無効の理由は被告人傍島の供述によれば金木選挙管理委員会の印影中「挙」の字の上部の三つの点の真中が特に短いもの及び「挙」の字の下部の「手」の部分が「千」の如く見えるもの又は「管」の字の竹冠の足のないものを(但し被告人傍島の司法警察員に対する昭和三十三年五月十三日付供述調書では竹冠の足のないのが正しく足のあるものが偽造印と思つた様に図解して示してある)偽造の印と解し被告人中谷、同秋元もその様なものを無効として選別したと供述して居る(被告人中谷の昭和三十三年五月二十一日付検察官調書、被告人秋元の同月二十日付同月三十日付各検察官調書)、然しながら押収してある無効と選別且決定した判示四百九十六票の花田候補の無効投票中右の様な印影でないもの即ち正規の印影と見得るものが百十票位(別紙参照)入つて居るし又被告人中谷の五月二十一日付検察官調書によれば無効票中百三十六枚は有効と思われる票があるとの供述記載もある而して前記平井勝の鑑定書によれば右無効投票(四百九十六票)に付ては選挙管理委員会の印影は正規の印影と同一である事を認めて居る、又右被告人等が偽造と言うところの印影のある投票は被告人等が有効とした花田候補の投票中にも多数存在して居る事が認められる、更に又白川弥太郎立会人は右の無効投票として選別した票に付ては無効ではないと認めてその旨を被告人傍島に強行に主張したことが同人の当法廷における証言によつて認められ而して又右の様な印影の或る部分の多少の相違は印顆に対する朱肉の付着の濃淡によつてその様な変化相違が生ずることのある事は一般常識上経験則上容易に考えられる事柄であるし被告人傍島は元小学校の校長の職にあつた人、被告人中谷、同秋元はいずれも当時も現在も金木町議会議員であり又右中谷は金木町農業委員会副委員長、同秋元は農業協同組合長の職にあつた者であつて、本件開票に際しては選挙長又は開票立会人に選任された位の人柄であつて見れば右の如き常識、経験は当然持つて居たものと解される、然も被告人中谷の昭和三十三年五月二十一日付検察官調書によれば同年四月二十七日の開票中被告人傍島が前記印影の字のものは無効にして抜くべきではないかと言われ自分は偽造印かどうか判らないが無効として選別した旨の供述記載があり又同人の同月二十日付の司法警察員に対する供述調書によれば花田の投票中有効と思われるものも故意に無効として選別したものもあるとの供述記載があり又被告人秋元の昭和三十三年五月十八日付司法警察員調書によれば右二十七日の開票に当つて傍島の無効だと言う印影に付ては無効にする自信は全然なかつたが傍島の言う通りに無効として選別したものであり津島の方からは抜かないと言う意味の供述記載がある。以上の様な理由から、被告人中谷、同秋元は被告人傍島の指図通りに選別したに過ぎず無効と信じての選別ではなく、従つて被告人傍島も自信或はそれに近い疑を持つて無効と決定したものとは認める事は出来ない、被告人傍島は開票中会場が混乱した為立会人の多数決に従つて無効と決定したものとも言つて居るが会場が混乱したのは右の無効票が選別された後の事であり、その混乱の起る前既に被告人傍島は被告人中谷、同秋元に無効として選別することを指示して居る事前認定の通りであるからその指示の時既に右三名の間でその様なことを理由として花田の票から無効票を出す事を予定して居たと言うべく決して被告人傍島の言う如く多数決によつて決めたものとは認められない、尤も本件投票に当つては多少疑わしい所為がなかつたとは言えない(投票総数と投票人員数との関係で六票の違いが出た事、投票紙を一括して投票箱に入れたらしい事実)又二十七日迄の投票箱の保管事情に不十分と思われる点があつた事もうかがえ、従つてそれらの事から被告人等が投票に付て多少の疑問を懐いた事実を否定するものではないが、さればと言つて之を以て前記の様な被告人等の選別又は決定を正当と認める理由とはならないし、真に被告人等が言う如く右の印影に疑を持つたと言うならば花田候補の投票中被告人等の選別決定した有効投票中に多数の疑いを持つた印影と同様の印影のある投票が存在しこの事は如何なる理由によるものか見落し等とは到底解されないし又更に被告人中谷の前記五月二十一日付検察官供述調書によれば被告人秋元は花田の有効投票百票束の上に二、三票の津島の投票を重ねて津島候補の有効票と見られる様に擬装したのが二束位あつたが、白川立会人から発見された旨の供述記載もあり以上の諸点からして被告人等三名は劣勢の津島候補を当選させるべく不正に花田候補の有効票中津島候補の有効票が花田候補の有効投票数を上廻る迄無効とするべく意図しその為の一応の理由付けとして不鮮明の印影を偽造印の口術に故意に判示の如き不正の選別、決定を為したものと解するの外はなく、被告人等の真の目的は津島候補の当選に必要な数だけ花田候補の有効票を減少することにあつたと認められる、又、そのことは前記の如くその無効とした四百九十六票中に正規の印影のある投票が(他に無効の理由のない)百票以上存在した事実に徴しても伺えるところであるし勿論右の数は弁護人の主張するが如き若干とは解されない又右弁護人は開票終了前に各候補者の得票数が予想出来る様な事はないと主張して居るが中村本真、田中勇吉の証言、西村啓次郎の昭和三十三年八月二十一日付検察官調書、土岐繁一の同月六日付検察官調書、被告人中谷の同年五月二十一日付検察官調書等を綜合すれば各候補者の得票の予想は相当な確度で判つて居た事が認められる。
次に本件は被告人傍島が選挙長として投票の有効無効に関し疑義あり解釈の余地の存在するものに付てその職権裁量の範囲内で無効と決定したものであつて投票増減罪は構成しない、本件無効とした投票の印影は一見他と異るものもあり、これを無効と解し得ないものではないから之を有効と解し又は無効と解するのも選挙長の権限に属するものであつて、その結果が後日における鑑定の結果と異るものがあつたとしても刑責を負うものではない、本件は公職選挙法第二百三十七条第四項の投票増減罪として起訴されて居るが本罪は物理的に投票を増減することか少くとも物理的増減と同視し得る故意の数え違い等計数上の明白な増減に限られるべきであり、投票の有効無効の認定の如きは選挙長の権限に属し、投票増減罪の範囲に含まれないものである、大正十一年一月二十八日の大審院判例も投票の有効無効に関し疑義あり解釈の余地あるものに付これを決するは選挙長の職権裁量の範囲に属しいずれに決するも適法なる権限行使に外ならざるを以て投票増減罪を構成することなしと言い、本件においても証拠上右の裁量権の権限を超えるものはなく投票増減罪は構成しないと主張するが、右判例は前記の如く疑義あり解釈の余地のあるものに付ては選挙長に有効無効を決すべき裁量権があると言うのであり従つて疑義なく解釈の余地のないものに付ては勿論選挙長に右の裁量権のないことこれ又当然の事理である。本件に付て之を見るにその分岐点となるものは被告人傍島が選挙長として無効と決定した判示四百九十六票が右判例の如く有効か無効かを決するに付て疑義があり解釈の余地が存するか否かにあるが、被告人傍島が右投票に付て疑義を持つた点は前記の如く印影中の「挙」と「管」の字の一部分に多少の変化がある点を目して偽造と解釈する余地がある点と言うのであるが勿論鑑定の結果はその印影は全て正規の印影である事を認めて居り且それは既述の如く印顆に対する朱肉の付着の濃淡又は押捺の際の力の不平均或は被押物体が平面でない為等により生ずる変化であることは一般経験上顕著な事実であり何等疑義を入れる余地はなく従つてかかる投票に付て選挙長に有効無効を判定する職権裁量の余地は全くないものであり、又被告人等が之を察知せず真に偽造の疑を持つたとは前記の事由から到底解されないところであり以上の如くであるから被告人等三名の判示所為は共同して故意に有効票を無効と為したものと言うべきである。
次に右弁護人並びに被告人珍田は被告人珍田が本件に於て共謀共同正犯として起訴されて居ることに付て次の如く主張して居る。
先ず共謀は昭和三十三年四月二十四日五所川原市の藤や旅館に於て行われたと言うが、その当時は被告人傍島は選挙長ではなく、又被告人中谷も立会人ではなく犯罪能力もなく又被告人秋元一人が立会人であつたが立会人には投票の有効無効を判定する権限はないからこれ又犯罪能力はない、従つてかかる者の間に共謀は成立しない又選挙長に擬せられた大橋忠雄は就任を受諾せず、選挙長を選任すべき選挙管理委員の西村、土岐がこれに反対したのであるから右共謀は実行不可能の事柄であると、よつて右に付て案ずるに共同正犯は実行行為を分担しなくても共謀に加われば成立することは判例の認めるところである、而して右藤や旅館に集つた当時被告人傍島は選挙長ではなく又被告人中谷も立会人でなかつた事はその通りであり又被告人等に投票の有効無効を決定する権限がなかつた事もその通りであるが、共同正犯の犯罪は必ずしも共同正犯者自ら手を下さなければ成立し得ないものではなく共謀者が更に他人を使つて犯罪を行わせてもその成立を妨げるものではないが本件に付ては右藤や旅館に於て右大橋忠雄が一旦選挙長に就任することを引受けて居るものでありその事は被告人珍田の司法警察員に対する供述調書(昭和三十三年八月六日付)同人の検察官に対する供述調書(同月八日付)に右大橋が選挙長の就任を承知したとの供述調書があり更に被告人秋元の検察官に対する同年五月二十二日付供述調書並びに大橋忠雄の同年六月七日付供述調書によれば被告人秋元はその翌日(二十六日の様に供述して居るが二十五日)大橋忠雄の家に開票の相談があるからと迎えに行つた旨及びその際大橋が選挙長就任を拒絶した旨の供述記載があり更に田中勇吉の同年九月九日当法廷に於ける証言によれば大橋がその頃その知人の高橋と言う人から選挙長になるなと言われて居るのをその場で聞いて居たと述べて居り又それから津島の選挙事務所へ行つて同所で選挙長を引受けない旨を述べた事の供述がありこれ等を綜合すれば大橋は一旦選挙長を引受けたがその後その就任を拒絶した事を認めることが出来る。右認定に反する大橋の証言並びに検察官調書(藤やで引受けなかつたとの)は前記証拠に照らしにわかに措信出来ない、次に被告人傍島、同秋元、同中谷は右藤や旅館に居た時は投票を増減する実行能力がなかつたと言つて居るが勿論投票の有効無効を決定するのは選挙長の権限であるがその権限の行使を容易ならしめる行為を担当しても尚実行に加担したものと解される事は判例の示す通り(昭和三十六年十一月十五日最高裁第一小法廷)であつて本件に付ては判示の証拠によつて明瞭な如く被告人傍島が実行行為を担当し被告人秋元、同中谷が右傍島の指示に従つて実行行為(無効の決定)を為すに便利な様に判示の如く無効票を共同して選別したものであつて右被告人秋元、同中谷の右所為は投票を減少せしめる行為に加担したものである、尚前記の如く最初は大橋を選挙長として被告人秋元並びに田中勇吉(当時の立会人)が右の如き犯行を行う予定であつた事は被告人珍田の昭和三十三年八月六日付司法警察員に対する供述調書並びに同月八日付検察官に対する供述調書中の大橋が藤や旅館で選挙長を引受けてから開票の具体的な事は開票関係者に委かせて貰い度いと言い、大橋、秋元、田中の三人に委かせる事にしたとの供述記載によつて之を認める事が出来る、而して右弁護人は実行行為に付ての具体的共謀はなかつたから共謀共同正犯たるに足る共謀があつたとは言えないと主張するがこの点に付ても共謀に付ては犯罪実行方法の具体的内容に入つた謀議のあることは必要ではなく共同目的を実限する為の共同実行の認識があれば足りるものでありこの事も最高裁判所昭和二十六年九月二十八日第二小法廷における判決によつて明瞭である、本件に付て之を見るに、前記藤や旅館での謀議の事実は西村啓次郎の検察官に対する昭和三十三年八月二十二日付供述調書によれば被告人珍田が西村啓次郎(当時の選挙長)に開票に付ての意見を聞いたところ同人が公正に行うと述べたところ珍田はそうすれば津島は負けると言い、更に西村が選挙ならどつちが負けても止むを得ないと言うと珍田は花田を町長にはさせられないと言い同席者の一人から他事記入をしたらとの言も出たが
西村は一、二票ではない何百票もどうしてやるのだ、俺は選挙長を止めると言い、珍田は花田は不正をして居るから花田の票から無効票を出せば津島が勝てると言う意味の事を主張し、西村等に右無効票を出す事をやらせるらしい事が判つたのでこれ以上関係は出来ないと考え委員長の交替を申出土岐を推したが同人は拒絶した事、更に選挙長に付ての交替者として大橋忠雄に対し珍田がその就任を頼み、そして花田の票を無効にすれば勝てるとも言つた、その席上被告人秋元は勝つ為にはどんな事でも止むを得ない、他事記入でもなんでもやらなければ駄目だと言つた事が認められ、又前記認定の如く大橋は一旦選挙長を引受け被告人秋元と前記田中勇吉がその実行行為を共同して行う事に謀議が決まつたのでありその実行行為とは花田候補の投票中から津島候補が当選を得る迄無効票を選別し且決定することにあると認められる更に同人の同年八月二十八日付検察官調書によれば前記藤や旅館での協議は被告人珍田が中心で話を進めて居たとの供述記載があり更に土岐繁一の同年八月六日付検察官調書によれば右藤や旅館で被告人珍田がどうしても開票しなければならない様だ、どうすればよいのか大橋と田中勇吉を呼んで相談しようと言い又更に西村啓次郎に対して選挙管理委員長と選挙長を何処迄やつて行けるかと質問し右西村が具合が悪いと述べるや誰れにやらせたらよいだろうかと問い西村が私を推したので拒んだが珍田が更に私に西村が駄目ならお前やれと言われ断れなくて委員長を引受けた、そして更に大橋忠雄に対しても選挙長に就任する様に頼んだ事が認められ以上の事実を総合すれば被告人珍田は終始藤や旅館では同席者の上位に立つて同席者をリードし本件金木選挙の開票に当つては選挙長並びに開票立会人を(始めは大橋、秋元、田中)使つて津島候補を当選させる目的の下に花田候補の有効票中から故意に数百票の無効投票を立会人に選別させた上之を選挙長をして無効と決定させよつて津島候補の有効得票数が花田候補のそれを上廻らせる様に為し、以て津島候補を当選させて金木の町長の座に就かせるべく企図し又被告人傍島、同中谷も之に同調し以て右共同目的遂行の為の謀議が成立したものであり、その具体的な実行行為の内容に付ては後日更に協議を続行する事に決まつたものである、然してその後前記認定の如く大橋忠雄が選挙長の就任を拒絶して右共謀関係から離脱し更に右田中が大橋同様共謀関係から脱退し、よつて選挙長の役を被告人傍島が、又立会人の役を被告人中谷が引受けた上判示の如く昭和三十三年四月二十七日被告人秋元、同中谷が被告人傍島の指図に従つて共同して故意に花田候補の有効票の中から四百九十六票の投票を無効票として選別し之を被告人傍島が選挙長としてその有効である事を知りながら故意に無効票の投票と決定しよつて花田の有効投票を四百九十六票減少させ以て被告人珍田も右被告人三名の実行行為によつて前記共同の目的を達したものであり、以上の認定の事実によつて被告人珍田に付て本件公訴の如き投票増減罪の共謀共同正犯を認めることが出来るので結局弁護人の主張はいずれも採用し得ない。
更に被告人傍島、同中谷、同秋元の三名はいずれも本件共謀の点を否認して居るが之に対する判断は前記意見と同一である。
よつて主文の通り判決する。
別紙(省略)